【column】軍事政権に立ち向かう音楽と壁
ラップもグラフィティも生が良い。
日常に起きていることを、いつもの言葉で。
それが生み出すエネルギーは凄まじく、時に言葉の壁を超える。
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タイのグラフィティ・ライター「HEADACHE STENCIL」の個展が日本で行われる。
HEADACHE STENCILは、タイの国内情勢を題材にした作品を制作している。
タイでは2014年に発生した軍事クーデター以来、今もなお軍事政権が続いている。
彼はそんな環境下で起きる政治腐敗や社会的な不自由さを壁にぶつけることで人々に問題提起を行っている。
今年2月、タイ大手企業の社長がクロヒョウを密猟、身柄を拘束された際に便宜が図られたという。
富裕層に甘い捜査当局や、社会的不平等を訴えかけた作品だ。
クロヒョウの傍にはミュートボタンが添えられ、事件が揉み消されるのでは?と揶揄している。
こちらは今年1月、タイ軍事政権ナンバー2の副首相兼国防相が25個の高級腕時計を未申告で所持している疑いが浮上した際の作品。
モチーフは同じ時計でも目覚まし時計。単なる批判に止まらず独裁政権からの「目覚め」が表現されている。
こちらは毎年増え続ける軍事費と、それによる社会的な影響を批判したものだ。
シーソーの片側に座る少女を教育の象徴とし、軍事費に重きが置かれていることが表現されている。
HEADACHE STENCILは、昨年日本にも訪れ作品を残しているようだ。
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こうした政権批判は壁だけでなく、音楽でも広がっている。
これは公開から20日で視聴回数が3,000回を超えたある動画だ。
動画はタイの「RAP AGAINST DICTATORSHIP」というラップグループによるもの。
クーデターから4年を経てなお続く軍事政権に対して、痛烈な批判の言葉が綴られている。
音楽より何よりも先に「言いたいこと」がある様子が強烈に伝わってくる。
彼らは、朝日新聞のインタビューに対してこの楽曲をドロップした動機を「異議を表現するのは安全なことではない。もし我々がやらなければ、だれもしないかもしれない。だから、我々が大きな声で言う必要があった」と語っている。
歌詞に対する検閲は今年中国でも話題になった。彼らも同じく政権側に目をつけられ、調査の対象となったようだ。しかし、その検閲行為自体が批判を浴び、現状はいずれの罰則も受けていないという。
彼らの言葉は、少なからず強権を動かし始めている。
タイではこの4年間選挙が行われてきていなかったが、来年ようやく選挙が行われる兆しがある。
国立開発行政研究院(NIDA)が10月に公表した世論調査の結果によると、次期首相にしたい人物として、「プラユット首相」(現首相)と回答した割合は約3割とトップ。但し、徐々に他の候補との差は詰まってきているという。
こうした表現の力は都市部のみならず、SNS・更にはそれを取り上げる国内外のメディアの力を通じて農村部の層にも届いているだろう。
今年初めに新党「新未来党」を設立したタナトーン党首は民間出身。
現政権の支持層である都市部の反タクシン派、農村部のタクシン派の対立構造に割って入る形だ。
タイの動向は1つの党が強大な力を持つ、あんな国やこんな国にとっても他人事ではない。
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EXHIBITION Info.
HEADACHE STENCIL SOLO EXHIBITION “FREEZE”
会期:11月10日(土)~25日(日)
場所:JINKINOKO GALLERY
住所:渋谷区猿楽町22-1
URL:http://www.jinkinokogallery.com/
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参照元
タイ軍事政権に痛烈な批判をぶつけるヘッドエイク・ステンシルのグラフィティ(Global Voices)